活動の年次記録

令和元年度定期総会は恙なく終了 ―記念講演は株式会社キャドセンターの河原氏―

令和元年度定期総会は恙なく終了

―記念講演は株式会社キャドセンターの河原氏―

「デジタル表現における防災情報の捉え方と伝え方

~CADCENTERの防災分野への取組~」

 

当NPOの令和元年度定期総会は6月30日、日曜日に新小岩北地区センター・ホールで開催されました。恒例となった講演は株式会社キャドセンターのGISグループ空間情報デザインチームリーダーの河原大氏によるもので、演題は「デジタル表現における防災情報の捉え方と伝え方

~CADCENTERの防災分野への取組~」というものでした。皆様ご存知の通り、株式会社キャドセンターは東京大学加藤孝明先生の研究室と共同で拡張現実を使った防災アプリ「天サイまなぶくん葛飾」を開発した会社です。

河原氏の講演の後、評議員会、理事会に引き続き総会が行われ、予定された議案は全て提案通り承認されました。会には荒川下流河川事務所や葛飾区役所の関係者の方も出席され、最近の地域での関連する動きについての質疑応答も行われ、有益な会合となりました。

 

河原氏が多くの映像やデジタル・コンテンツを表示しながらおこなった講演の概要は次の通りです。

 

キャドセンターは3DCG技術をベースにした映像、CGパース、インタラクティブコンテンツや3Ð地図といったデジタル・コンテンツを作っている会社です。身近なものとしては、不動産分野での販売促進で広告媒体にあらわれる住宅やマンションの完成予想図などが挙げられますが、映像、イメージのみでなく、訴求力を高めるために様々なデバイスを活用したコンテンツ開発にも携わっております。設立は1987年、従業員は160名、本社は東京で大阪にも事務所を持って活動をしています。デジタル・コンテンツの制作・販売を業とする分野では日本では草分け的な存在の会社の一つといえるでしょう。

 

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私自身は約15年前に入社し、現在はGIS(地理情報システム)グループ空間情報デザインチームに所属しておりますが、大学で都市地理学を専攻していたこともあり、都市空間や地図作成を得意としていますので、業務では、地盤から建物すべて含めた都市空間3Dデータの作成などに主に従事しております。生まれは大阪ですが、長らく京都郊外の城陽市で育ち、その後、京都市内で過ごしました。東京に移ってからは、調布市に住んでいますが、これまであまり災害とは縁のない生活を送ってきました。

 

ただ、キャドセンターに入社した2005年頃から防災・減災に対する社会の関心が高まり、災害状況や、ハザードマップ、災害の起こるメカニズムを可視化する動きが強まってきました。一方、この間にビジュアル化する技術も進歩し、防災分野のコンテンツ開発も徐々に増えてき、キャドセンターでも防災分野のコンテンツ制作が徐々に増加しており、ハザードマップなど地図に親和性のある内容も多く、入社以来、防災分野についても担当してきました。ここでキャドセンターにて扱う防災分野のコンテンツを分類してみると(1)見せるコンテンツ、(2)伝えるコンテンツ、(3)体験するコンテンツに分類することができるかと思います。

  • (1)の見せるコンテンツとしては、災害のメカニズムや状況を「見える化」し分かりやすく理解させる防災教育に役立つ資料などが多く、津波の襲来をシミュレーションしたものや、河川の決壊による洪水のシミュレーションなどがあげられます。
  • (2)伝えるコンテンツとしては、2Dや3Dのハザードマップや、AR(拡張現実)の技術を使って作られたARハザードスコープ(「天サイまなぶくん」もその一つです)などで、防災に役立つ「情報」を提供するコンテンツがあげられます。
  • (3)体験するコンテンツは、VR(仮想現実)を使って作られたコンテンツを自らインタラクティブに操作することで震災の直前・直後を経験したり、津波や火災を体験するものです。

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ところで、今後はどのようなコンテンツの提供が期待されているのでしょうか。それはやはり体験型のコンテンツが主流となってきています。防災分野においては、映像的な精度向上は勿論ですが、すぐれたシナリオやストーリーを用意したり、同時に複数の人が体験できるようにしたりすることで、よりリアリティを高め、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などの日々高度に進歩しているデバイスを活用したコンテンツが望ましいかと考えております。

 

最後に「天サイまなぶくん」も来年3月には改訂版が登場することになっています。どうぞご期待ください。

講演に対する質疑応答は次の通りです。

質問 →ARハザードスコープは震災の発生によってインターネットが使えなくなり、オフラインになった時にも使えるのか。

回答 →ARハザードスコープはアプリ内にハザード情報を保持し、かつ、オンライン地図(国土地理院標準地図)についても、キャッシュ保存できるため、平時にあらかじめ保存しておけば、災害が生じ、通信不全やオフラインになっても、問題なく使用できます。

質問 →ニュースレターに予告が載っている「天サイまなぶくん」はどのぐらい変わってくるのか。

回答 →地震の危険度については、新しい東京都地域危険度調査結果に更新され、水害については、2015年の水防法の改正を受けて想定基準が一段と高められた情報に対応した改訂版となっている。具体的には、大雨については1000年に一度といった大雨による被害想定が示され、また、洪水時にも浸水しない公共の建物や、首都直下地震に耐えうる建物、火災発生時の避難場所などのデータも新たに表示されることになっている。

 

次いで評議員会・理事会・総会が行われました。

 今年も東新小岩五丁目町会長でNPOの副理事長でもある青柳勇氏が司会を務めました。冒頭に明治大学名誉教授で元東京都副知事の青山佾氏からの祝辞が披露されました。

次いで評議員会に入り、NPO事務局メンバーでもあるの増澤評議員が評議員会の議長に指名されました。議長の要請で成戸理事長が挨拶に立ち次のような挨拶がありました。

 

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成戸理事長の挨拶は次の通りです。

昨年来取り組んでいる活動及び関心をもっている事項に絞ってお話いたしたいと存じます。

第一はホームページの見直しを行っていることです。従来スーパー堤防に偏っている感がありましたが、現在はNPOの活動も浸水対応型市街地の構築という立場から親水も取り上げているということで見直しを進めてまいりました。既に一部は改訂を行っていますが、本年中に全体の見直しを完了する予定です。

第二は国土交通省が本年1月に発表した大成ホールディングの土地で高規格堤防の整備事業を行うことが発表されたことです。実現すれば堤防と同じ高さの高台ができることになり、緊急時の避難場所として利用できることになります。ただ、新小岩公園の高台化事業と同じで、地域の皆さんには大きな影響を与えることにもなります。、我々はNPOの本来の趣旨である行政と地域の皆様との間に立つという立場からこれからもこの事業の進展に注目していきたいと考えています。

第三は地盤沈下の生き証人たる「古井戸」の復元セレモニー開催の件です。都の第5建設事務所が建て直しを行う間、一時切断され保管されていた「古井戸」はこの夏事務所が完成するのに伴い、復元されることになりました。それを記念して11月30日にセレモニーを開催することで各関係先との調整はほぼ整ってまいりました。セレモニーとしては上平井中吹奏楽部の演奏の後、地域の四つの小学校生徒代表による除幕式を行うと共に、小学生でも分かるような案内板の文案を上平井中地域防災ボランティア部の皆さんを中心としたワークショップを開いて考えてもらうことにしております。本日ご臨席の皆様にも是非ともご参加くださるようお願い申し上げます。

 

次いで議案審議に入り、第1号議案「平成30年度活動結果」、第2号議案「平成30年度活動決算」と監査報告、第3号議案「令和元年度活動計画」、第4号議案「令和元年度活動予算」、第5号議案「定款の一部改訂について」、第6号議案「役員の選任」が上程され、夫々議案説明と質疑応答の後、提案通り承認されました。

 

なお、今回の総会で行われた質疑応答の内容は次の通りです。

質問 1→エンジン付きゴムボートの件だが、昨年総会では舞台に飾られているのを拝見し素晴らしいなと思った。今後水防訓練などあれば知らせてほしい。

回答  →ボートに関しては輪中会議で触れたり、ニュースレターの中でも記載しておいたが、取り扱いについていくつか注意していただきたい事項があるのでお話ししておきたい。

第一はゴムボートは穴が開きやすいものだということだ。勿論1ヶ所穴が開いてもすぐ沈むというものではなく、自転車のパンクの修理の要領でパッチを張ることで修理可能である。使用に当たっては搬送など際に注意すると共に、修理用のキットを必ず携帯するようにしていただきたい。

第2には燃料がガソリンであり、消防法によりその購入、保管、取扱いには種々の規制があることだ。個人で持ち運ぶのも原則禁止で、どうしても必要な時は鉄製のタンクに入れ、容量は10リッター以内とすること、ガソリンスタンドで自分で給油してはいけないこと、セルフのスタンドでも危険物取扱免許を持った人が必ずいるのでその人に頼むこと、自宅での保管も40リッター以下とすることを守っていただきたい。

第3にスクリューの取り扱いも充分注意してほしい。誤って子供などが巻き込まれないよう十分注意してほしい。

水防訓練は葛飾区の総合防災訓練の日に合わせて、9月29日に中川の奥戸地区の船着き場で行われるので都合がつけば参加いただきたい。

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質問 2→ 配布された街づくりニュースは年々大作となっているが、今年号の特徴について教えてほしい。

回答  →まず読みやすくしたことが第一の特徴である。写真を多くして、目次を各ページの上肩につけたこと、文中に関連する内容、項目が参照できるようページを記載したことによる。第2には輪中会議の結果全てを記載したこと。特に新しい団体が多く参加し自由討議の結果、多くの意見が出て今後の進め方に参考になったこと。編集会議に新たに上平井中地域防災ボランティア部OBで前部長の小豆島君が参加したことで若者の目で見た多くの意見を聞くことができたことである。

     内容について触れると冒頭は成戸理事長の「最近の活動」は、本日の挨拶をより詳しく、敷衍したもの,であり、次の事務局長の報告には更に詳細を見るための参照先がつけられている。理事のコーナーでは加藤先生が詳細に「浸水対応型市街地構想」を説明し、他に土肥、青柳、中川、渡邉の4理事が寄稿している。学校からでは地域防災ボランティア部の高田部長がしっかりした活動結果報告を寄せているし、支援している東京大学の南君が地域で盛んになっているアクティブラーニングについて興味ある報告を寄せている。その他、地域からのコーナーでは新しい寄稿者の数が増えており、行政からは最近の動きについて有益な報告が寄せられるなど、ますます充実してきている、

最後に表表紙と裏表紙の写真は、初めてすべて葛飾区あるいはその周辺の写真でまとめられているのでご高覧願いたい。

 

質問 3→今年の1月10日に西新小岩地区の荒川高規格堤防整備事業を進める旨の発表が国土交通省関東地方整備局からあり、その資料の配布が町会長会議であった。しかし、その後、地元にも説明がないようだが、この事業は現在どのようになっているのか。

回答  →この事業は平成31年1月10日に国土交通省事業評価監視委員会で事業実施原案が承認され、その後平成31年度の予算措置が承認されたため、今後2年をかけて盛土の形状と道路の設計を開始したところである。

 

質問 4→今年4月の輪中会議で、葛飾区から、新小岩公園の高台整備事業について説明があったが、その後の進展や展望について説明してほしい。

回答  →新小岩公園の防災高台整備事業については当初国の東京東部低平地「防災高台整備事業」を利用し、工事等で発生する残土を利用して、基本的に金をかけないで実施しようとしたのだが、共同事業者が見つからず不調に終わった。調べてみると工事現場が二カ所になること、埋め立て地が総武線沿いの地で埋め立てには不向きなことなどで共同事業候補者に難色を示されたことが判明した。そこで2年間かけて埋め立て地域を見直すということになったが、新小岩公園の西側に緩傾斜堤防建設の計画があり、この工事が行われると堤防の天場が高くなり、防災上の機能は向上するがそれだけでは充分とは言えず、他方傾斜面の利用を含めた平時の公園としての利用も考えて計画の見直しを行うことが必要とのことで、新小岩公園再整備に向けた基本構想・基本計画を地域の皆さんと共に検討するための検討会・意見交換会を開催することになった。まずは検討会・意見交換会に先立つ「新小岩公園再整備基本構想の検討に関する説明会」を7月5,10の両日開催するべくご案内をしている段階である。

質問 5→先日、葛飾区から「浸水対応型市街地整備構想」が公表された。この構想は平成30年8月に発表された「江東五区大規模水害広域避難計画」と共に、大規模水害時のソフト対策の重要な柱となるものと思われる。新小岩北地区町会の皆さんの関心も高いと思うので、構想の概略について説明していただきたい。

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回答  →浸水対応型市街地構想は気候変動による集中豪雨や巨大台風の発生による大規模水害対策として、「治水・広域避難・浸水対応型市街地づくり」という三位一体の対策の一つとして実施ていこうというものである。しかし、簡単できるものではなく、30年ぐらいかけて、3段階に分けて進めて行こうと考えている。即ち、第1段階の10年後には「広域避難できなかった人が、命の安全を確保できる市街地」を、第2段階の20年後には「1~3日の期間、最低限の避難生活水準が確保できる市街地」を、第3段階の30年後には「2週間程度の水が引くまでの期間、最低限の避難生活水準が確保できる市街地」を実現しようというものである。ここで注意すべきはこれが達成されれば逃げなくてもよいというものではなく、少なくとも25%の人は広域避難をすることを前提としていることだ。

これまではイメージや考え方を整理したものだったが、今年からは具体的なアクションにもっていくことを考えており、とりあえずは公共の建物の建て替えに際して避難スペースを設けるとか、学校の改良工事の際に併せて避難スペースの機能を付加するとか、、民間レベルでもそのような対策をとってもらうよう誘導していくことを考えている。

 

質問 6→浸水対応型市街地構想といったものを発表したのはおそらく葛飾区が初めてだと思うが、折角ならホームページにひっそりと発表するより、区長が会見して発表した方が今後構想を具現化するにあたり国や都の支援を得やすいのではないか。

回答  →従来からそのような指摘は受けており、我々もどのような形で発表の機会を持つか検討しているのでお待ちいただきたい。

 

総会終了後30名あまりの方が参加して交流会を開催しました。地元の皆さんも多数参加され、和やかなひと時を送るることが出来ました。今年も気分も新たに皆様と共に「浸水と親水」をキーワードに活動に取り組んで参ります。皆様方の一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 

以上

 

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