街づくりニュース 2021.09 vol.27
葛飾区・新小岩北地区の水害対策とまちづくり最前線【NPOア!安全・快適街づくりニュース vol.27】
はじめに:コロナ禍でも歩みを止めない防災まちづくり
東京都葛飾区の新小岩北地区では、NPO法人「ア!安全・快適街づくり」を中心に、町会・行政・大学・専門家が連携した「防災もまちづくり」の取り組みが20年近く続けられています。本記事では、2021年9月発行の会報「ア!安全・快適街づくりニュース vol.27(2020年度総集編)」の内容をもとに、葛飾区における水害対策・浸水対応型市街地構想・流域治水・防災アプリ開発などの最新動向をまとめてご紹介します。
新小岩北地区は荒川・中川に囲まれた、いわゆる「江東5区」「東京東部ゼロメートル市街地」に位置し、大規模水害リスクと向き合いながら「浸水」と「親水」を両立させるまちづくりを実践してきました。
コロナ禍とNPO活動の1年
2020年度は新型コロナウイルスの影響で、輪中会議や総会の対面開催が困難になり、Web会議(Zoom)中心の活動へと移行しました。そうした制約の中でも、以下の取り組みが継続・発展しました。
- 災害タイムラインアプリ「天サイ!まなぶくんタイムライン」の開発(関東地域づくり協会の助成事業)
- 共助支援アプリ「天サイ!まなぶくんⅡ」の開発着手
- 新小岩北地区の小学校4校・中学校での出前授業(コロナ対策を講じながら継続)
- 「街づくりニュース」第26号の発行
第14回Web「輪中会議」(2021)の開催
輪中会議とは
「輪中会議」は2013年頃から続く、新小岩北地区の防災まちづくりの中核的な取り組みです。「輪中」という言葉には、木曽三川流域の伝統的な治水集落の知恵を受け継ぐ意味と、地域住民が輪になって議論する場という2つの意味が込められています。
2021年5月9日、初めてオンライン形式で開催された第14回輪中会議には、Zoom参加者とサテライト会場(新小岩北地区センター)を合わせて70〜80名が参加。従来参加できなかった層を含む新規参加者が約50%を占めるなど、オンライン化による新たな広がりも見られました。
テーマは「親水・浸水×まちづくり・ひとづくり×近所・近助」
会議では、東京大学・加藤孝明教授、国土交通省荒川下流河川事務所・早川所長、葛飾区都市整備部・情野氏による基調講話が行われ、以下のようなキーワードが共有されました。
- 流域治水:河川管理者だけでなく、流域全体(市街地・農地・山林)で水害に備える考え方
- 浸水対応型市街地構想:「貯める・流す」「逃げる」に加え、「受け流す」を組み合わせた三位一体の対策
- 浸水対応型拠点建築物:浸水しても機能を維持できる学校・公共施設の整備
- 高台まちづくり:高規格堤防や高台公園を活用した避難・復旧拠点の形成
- SDGsと防災:「誰一人取り残さない」防災・減災の実践
- ナッジ (Nudge):強制ではなく自発的な避難行動を促す工夫
葛飾区の具体的な浸水対応策
葛飾区都市整備部からは、以下のような具体的な取り組みが報告されました。
- 小松中学校・本田中学校の建て替え:体育館を2階以上に設置、外階段の増設、中圧ガス導入によるエネルギー多重化など、浸水対応型拠点建築物としての整備
- 民間建築物(大規模小売店舗・中高層住宅)の浸水対応型拠点建築物化:立体駐車場やEV車を活用した避難場所・電力供給拠点としての活用検討、令和4年度からの助成制度構築
- 新小岩公園の高台化:「未来志向の公園づくり」を掲げ、水害時の活動拠点かつ平時も使いやすい公園への再整備
- 「災害に強い首都『東京』形成ビジョン」のモデル地区指定:国・東京都・葛飾区が連携した高台まちづくりの推進
国土交通省 荒川下流河川事務所の取り組み
2019年の台風19号(令和元年東日本台風)では、荒川の水位が観測史上3番目の高さに達し、岩淵水門の操作や荒川第一調節池(貯水量3,500万m³)が大きな役割を果たしました。荒川下流河川事務所では、この経験を踏まえ以下の施策を推進しています。
- 流域治水×SDGs:河川管理者だけでなく、流域のあらゆる関係者が連携する「マルチステークホルダーパートナーシップ」
- DX(デジタルトランスフォーメーション):3次元ハザードマップによる浸水リスクの可視化
- ミズベ・グリーンコミュニティ:水辺を活用した市民参加型の防災意識向上
- 高台まちづくり:スーパー堤防・高台公園・浸水対応型建築物を組み合わせた多層的な備え
「天サイ!まなぶくんⅡ」――共助を支える防災アプリ
NPOア!安全・快適街づくりが独自開発した防災アプリ「天サイ!まなぶくん」は、2013年のリリース以来「防災まちづくり大賞」などを受賞してきましたが、2020年度からは新たに**共助支援アプリ「天サイ!まなぶくんⅡ」**の開発を進めています。
主な機能は以下の通りです。
- 動けない・助けが必要な人が「赤旗」をスマホで申請
- 近隣住民に自動通知され、対応できる人が「近助」ボタンで駆けつける
- 応援が必要な場合は「オレンジフラッグ」で追加支援を要請
- 救助完了後、地域の災害対策本部(町会)に自動報告
これは、従来の紙の赤旗・白旗による避難合図をデジタル化し、夜間や悪天候でも機能する「近所で近助」の仕組みをテクノロジーで支援する取り組みです。
地域・学校・企業を巻き込んだ多様な活動
学校防災教育
上平井中学校「地域防災ボランティア部」は結成14年目を迎え、iPadを使った調べ学習やハザードマップの分析、地域住民へのカスリーン台風聞き取り調査などを実施。二上小学校・松上小学校・上小松小学校・上平井小学校でも、東京マイ・タイムラインを活用した出前授業が継続されています。
企業・団体との連携
- 味の素ファンデーション:東日本大震災復興支援で培った「食」を通じたコミュニティ支援のノウハウを防災に応用する検討
- かつしか FM:地域メディアとしての防災情報発信
- 東新小岩七丁目 女性市民消火隊:広域連携による訓練実施
海外の知見・国際連携
パリ・ラヴィレット国立建築学校のマルク・ブルディエ氏からは、フランスにおける高台まちづくり・建築的浸水対策の事例が紹介されたほか、韓国・ソウルの漢江公園における「フローティング式(浮動式)建築物」による浸水対応の事例も報告されています。水位変化に応じて自動的に浮上する売店・トイレ・エレベーターなど、水と共生する都市インフラの先進事例として注目されます。
まとめ:新小岩から世界へ
新小岩北地区の取り組みは、2010年のシンポジウムで掲げられた「新小岩から世界へ」というスローガンの通り、地域発の防災まちづくりが国・東京都の政策(災害に強い首都「東京」形成ビジョン)や、フランス・韓国など海外の事例との交流にまで広がりを見せています。
- 市民先行・行政後追いの姿勢による持続的なまちづくり
- 総合性・内発性・自律発展性・多様性をキーワードとした地域活動の発展
- 世代を超えた学びの継承(保育園→小学校→中学校→高校→大学→地域社会)
気候変動による水害リスクの増大が指摘される中、葛飾区・新小岩北地区の「浸水対応型市街地構想」と「輪中会議」の取り組みは、全国のゼロメートル市街地・水害リスク地域にとって参考になる先進事例といえるでしょう。
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出典:NPO法人ア!安全・快適街づくり「ア!安全・快適街づくりニュース」2021年9月 vol.27(2020年度総集編)

